オカンから「良い人いないの?」なんて言われて、こんなに動揺するとは思わなかった。
あの人は聖人だ。孫を見たいとか、嫁を連れてこいとか、そんなありきたりな親のエゴは一度も口にしたことがない。ただ純粋に心配しただけだ。だから余計に刺さった。
心配かけたくなくて、自分はもう自立してるんだよって伝えたくて。
結婚を、あわよくば孫を抱かせてあげたいなんて、そんな未来まで勝手に想像して真剣に考えてしまう。
あの人は何も望んじゃいない。そりゃ嫁や孫を見せたら喜びはするだろうけど、俺は勝手に期待をでっちあげて、勝手に責任を背負おうとしているだけだ。
その話を、よくサシで飲みに行く六つ下の女友達にしてしまった。
「じゃあ、私が挨拶にいこっか? 付き合っちゃおうよ」と笑いながら言われて、冗談だと分かっていても上手く返せなかった。
心配されて情けなくて、でも少し嬉しくて、縋りそうになって、そんな自分がまた気持ち悪かった。
断ったのに、まだ引きずっている。
母が背負ってきたものと同じ覚悟を、年下に見てしまった自分が気持ち悪い。
それでもまだ、どこかで手を伸ばしてしまいそうな自分がもっと気持ち悪い。