たとえば物理学の場の量子論には、数学者が見ると卒倒しそうな無限大発散する積分の羅列が出てきます。発散しているその積分を正則化(有限化)し、変数変換や計算をした後で、改めて極限をとるなどを、物理学者は平気でします。しかしこのような計算により、驚異的な精度で実験結果を説明することができます。異常磁気能率という量の計算では、実験データの10桁以上を正確に予言できてしまいます。
また物理学者がそのような蛮勇を振るって計算をしたおかげで、興味深い結果を得て、それを更に深く考えたことが、重要な物理学の発見の切っ掛けとなったこともあるのです。場の量子論の量子異常の発見も、その一つでした。古典理論にはあった対称性が量子的に壊れてしまう例が見つかったのです。その計算も、全うな数学者だったら決してしない計算です。でもこの量子異常は、後にパイ中間子の崩壊過程の実験で実際に確認されたのでした。