最近、どうしても口元が緩んでしまう。
理由は――美波が、やたら僕に懐いてきて困るからだ。
「ねぇ、今日の台本読み、聞いてほしいな」
指先でページをパラパラめくりながら、ちょこんと隣に座る。
彼女、仕事モードのときはあれほどシャキッとしているのに、僕の前だとどうしてこう、子猫みたいに甘えてくるのだろう。
シーンの相談をしていたはずが、いつの間にか彼女の話題は横道に逸れる。
「ねぇ、あなたってさ、褒めるの上手いよね。だからつい聞きたくなっちゃうんだよ」
そんなことを屈託なく言うものだから、僕は返事に困ってしまう。
でも嬉しくて、困ってるふりをしながら心の中では小さくガッツポーズだ。